聖地らぼらとり

アニメ聖地巡礼を聖地巡礼する

【ありがとうタイムズマート】武田店長インタビュー[その4]

諸般の事情により、その3以降のインタビュー記事の公開が大幅に遅れました。楽しみにお待ちいただいていた皆様にはご迷惑をおかけしました。お詫び申し上げます。

インタビューもくじ

  • その1:閉店・移転に至った経緯について
  • その2:タイムズマートのこだわりについて
  • その3:タイムズマートの思い出について
  • その4:店長にとって『ヤマノススメ』とは?/新天地における構想について(本記事)
  • おわりに:インタビューを終えて

  • 店長にとって『ヤマノススメ』とは


    ーー店長にとって『ヤマノススメ』とは、どういうものでしょうか?

    店長:結局、理解したいのです。私は当初、アニメファンという存在について、“秋葉原にいる人”という漠然としたイメージしか持っていませんでした。その頃、以前流行した『電車男』が放送されていて、私はこの作品が大好きだったのですが、作中で描かれる“オタク”の姿を見て、それがデフォルメされて描かれていたとはいえ、「これがアニメファンなんだ」と思いながら見ていました。それこそ秋葉原に行けばアニメショップがあって、そういうお店の周辺をアニメファンが歩いているわけですが、当時は全く別世界だと思っていましたから、「わたしゃ関係ないよ」という風に壁を作っていました。また、以前タイムズマートでアルバイトをしていた子がアニメが好きで、コミケには毎回行くような子だったのですが、その子がたまにグッズを持ってきたとしても、私はそれを見て「すごい」とか「へぇー」とか思う以前に、「あ、そういう世界なんだ」くらいにしか思っていませんでした。「住む世界が違う」とか「自分は関われない」とか、そのように思っていました。

    『ヤマノススメ』の1期の放送が始まった直後のある日のこと、ある一人のアニメファンの方が、『らき☆すた』(注1)のグッズを手にお店にいらっしゃいました。その方は持ってきたグッズについてとにかく一生懸命に説明してくれて、それをきっかけに、今まで別世界と思っていたアニメ文化を理解しようと思いました。それと時期を同じくして、鷲宮(埼玉県久喜市)で活動されている別のアニメファンの方が名刺を持って来店され、私に「お店に巡礼ノートを置いたほうがいいですよ」とアドバイスをしてくれました。その方は私より少し年下という感じで、「アニメは子供が見るもの」と当時思っていた私は、アニメファンにも私と同じくらいの年齢の方もいらっしゃることを初めて知りました。さらに今度は秩父のアニメファンの方がいらっしゃって、当時既に賑わいを見せていた、秩父でのアニメ聖地巡礼(注2)の様子について教えてくれました。そうしたことを経て、私もだんだんと理解をしていきました。
    (注1)2007年に放送されたTVアニメ。埼玉県久喜市鷲宮が作品の舞台とされている。

    (注2)2011年に放送されたTVアニメ『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』を見た多くのアニメファンが、舞台となった秩父の街を訪れた。なお、飯能と秩父は西武線の特急列車で約40分の位置関係にある。

    そんな中、ある業者さんが『ヤマノススメ』のポストカードを手にやってきて、タイムズマートで販売をしないかと持ちかけてきました。価格は一枚300円とのこと。私からしてみれば、「なんで一枚のはがきが300円もするの?」と当初は疑問に思っていましたが、いざ販売してみるとすぐに売れてしまいました。ここで「あ、これがあのアニメファンの人たちが言ってたことか!」と気付きました。それからは、主に秩父の事例を参考にしながら、自分でも工夫をしながらグッズ作りに勤しみました。そこを起点として、『ヤマノススメ』との商売としての付き合いの部分が大きくなっていきました。さらに、それ以降『ヤマノススメ』関連の各種イベントに出店する機会があり、その際は私一人では回らないので、数人のアニメファンの方々に手伝ってもらいました。

    ーー手伝ってくださったアニメファンは、『ヤマノススメ』をきっかけにタイムズマートに来店するようになった方々ですよね?

    店長:そうです。そういうことを経験して、私もやっとこちらの世界に入れたのかな、と実感しましたね。

    こうしてアニメファンの方々と接していると、「俺たちを理解してくれよ!」という熱意がすごく伝わってくるのです。私も『ヤマノススメ』を盛り上げようと、飯能の街中の色々な場所に行って、『ヤマノススメ』の説明をしたり、「スタンプラリーをやりませんか?」と提案をしたりして回りました。しかしほとんどの人たちは、アニメというものに対して、当初私が抱いていたものと同様の印象を持っていて、そういう人々に対する反発が私の中で芽生えました。「これはビジネスチャンスでもあるし、良いアニメだし、アニメファンたちと一緒に飯能の街をよくしていこうよ!」と思って動いていたのですけれどもね。このとき、もし私に経済的な余裕があったのなら、もっと動けていたのではないかと思いますが、そういうわけにもいかず、お店のレジにずっといなければならない、お店から離れられないという制約があったのです。


    店舗移転のお知らせ


    新天地における構想について


    ーーお話を伺っていると、店長はやりたいことを色々とお持ちのようですが、心機一転、新天地ではそれらを実行できるのではないですか?

    店長:よく「ピンチはチャンス」とは言いますが、なにしろ今は超ピンチの状態なのです。ただ、前向きに考えれば、またゼロからスタートできるわけですから、今度は“モノ”を売るだけではなくて、“空間”を売る、“場所”を売る、“気持ち”を売る、といったことを考えています。『ヤマノススメ』ファンたちがゆるゆると来て、ゆるゆると話をして、全然知らなかった人同士がつながって、というような場所にしたいのです。本当は24時間営業が出来れば良いんですけどね。私は寝るけど、誰か他の人がいて、みたいに。

    ーー最近はただモノを買うだけではなく、そのモノに付随する物語も含めて消費する「コト消費」が注目されていますが、店長が仰った、空間や場所を売るというのは、まさに「コト消費」に当てはまると思います。

    店長:そうですね。言ってみれば、ここ6〜7年の「タイムズマートのおっちゃん」自体が物語ですからね。それを使って、売れるものを売りたいですね。

    ーーなるほど、店長そのものが物語ですか! たしかに、これまでの店長はお店の経営度外視で人助けをしてきたけれども、今度は自分がピンチになってしまった。それでもなおゼロから、マイナスから立ち上がろうとしている。そこに物語がありますね。

    ーーそれでは最後に、新天地での具体的な計画があれば教えていただけますか?

    店長:喫茶店や食堂みたいな空間にしたり、みんなで集まって交流をするスペースを作りたいですね。自分が作ったものをお客さんに食べてもらいたいという気持ちもあります。自分で作ることができれば、『ヤマノススメ』に関連した献立にすることも可能だし、それをお客さんに喜んでもらって、お金をいただけるとなれば、こんなに素晴らしいことはないですよね。

    アニメファンがタイムズマートに集うのは、同じ思い(=『ヤマノススメ』が好き)を持つ人々が集まって楽しく交流をするためです。そうして集まる人々の中には、ひょっとすると悩みを抱えている人もいるはずで、もしよければ相談にのりますよ、と。だからと言って、自分が悩みを抱えているということを大々的に明らかにする必要はなく、タイムズマートのおっちゃん、あるいはタイムズマートという空間が、あなたのことを受け入れて、ここで過ごしているうちに、問題を解決する方法が見つかるかもしれませんよ、そんな空間を作りたいですね。これは大変なことかもしれませんが、面白いと思います。

    ーー話すだけで楽になったりしますものね。

    店長:自分と同じ境遇の人がいるとか、自分のことを少しでも理解してくれる人がいるとか、それが分かるだけでも違いますから。私も色々な人からさまざまな形で支えてもらっています。

    ーー本日は長時間にわたリ貴重なお話を伺うことができました。旧店舗の閉店は残念ですが、新天地での再オープンを心待ちにしております。ありがとうございました!

    店長:これからも、飯能を訪れるアニメファンに楽しんでもらうために、頑張ります!


    インタビューを終えて